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大阪地方裁判所 昭和44年(行ウ)10号 判決 1976年1月22日

大阪市住之江区粉浜二丁目六番一二号

原告

白馬長吉

右訴訟代理人弁護士

鈴木康隆

ほか六名

大阪市住吉区上住吉町一八一番地

被告

住吉税務署長

坂元亮

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長

徳田博美

右被告両名訴訟代理人弁護士

松田英雄

右被告両名指定代理人

麻田正勝

ほか七名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  申立

1  請求の趣旨

(一)  被告住吉税務署長が原告に対し昭和四二年一一月二二日付でした、原告の昭和四一年分所得税の総所得金額を金一、〇八六、五三〇円とする更正処分(裁決により金八七六、八六三円に減額された)のうち、金四五八、三〇〇円を超える部分を取消す。

(二)  被告大阪国税局長が原告に対し昭和四三年一〇月二五日付でした裁決を取消す。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求める。

2  被告らの答弁

主文同旨の判決を求める。

二  主張

1  請求原因

(一)  原告は豆腐製造販売業を営む者であるが、被告署長に対し昭和四一年分所得税につき総所得金額を金四五八、三〇〇円とする確定申告(白色)をしたところ、被告署長は昭和四二年一一月二二日付で総所得金額を金一、〇八六、五三〇円とする更正処分をした。原告はこれに対し異議申立をしたが棄却され、さらに被告局長に審査請求をしたところ、被告局長は昭和四三年一〇月二五日付で更正を一部取消し、総所得金額を金八七六、八六三円とする裁決をした。

(二)  被告署長の更正処分にはつぎの違法がある。

(1) 原告の昭和四一年分の総所得金額は確定申告のとおりであり、被告署長は原告の所得を過大に認定している。

(2) 本件更正処分の通知書には理由の記載を欠いている。白色申告に対する更正だからといって、理由付記を要しないと解すべきではない。

(3) 本件更正処分は原告の生活と営業を不当に妨害するような方法による調査にもとづくものであり、かつ原告が民主商工会員である故をもって他の納税者と差別し、民主商工会の弱体化を企図してなされたものである。

(三)  被告局長は、審査請求についての調査にあたり、原告やその取引先におどしをかけるなどして、違法な事後調査を行なったものである。

(四)  よって原告は、被告署長のした本件更正処分のうち、原告の確定申告額をこえる部分の取消を求め、さらに被告局長の裁決の取消をも求める。

2  請求原因に対する被告らの認否

請求原因(一)を認め、(二)(三)を否認する。

3  被告署長の主張

(一)  被告署長は原告に対する本件係争年分の所得調査を行なった際、原告に対し所得計算の基礎となる帳簿書類の提示を求めたが、原告は一部原始記録を除き帳簿等の提示をしなかった。このため被告署長は実額による所得計算ができなかったので、推計により本件更正処分をしたものである。

(二)  原告の昭和四一年分の総所得金額(事業所得の金額)は別紙所得計算表A欄記載のとおりである。

(1) 豆腐(厚揚げを含む)の売上金額

豆腐の製造量はその副産物であるオカラの量と比例するので、本件係争中に原告が朝日乳業株式会社に売渡したオカラの量を基礎として同年中の豆腐の製造量を推計し、売上高を算出した。すなわち、原告が同年中に朝日乳業に売渡したオカラの代金は、一貫目当り一六円で総額九三、二四四円であったから、オカラの総量は五、八二七貫となるところ、原告方においては精選された大豆六升からオカラが二・五貫とれるから、これから逆算すると、原告方の大豆使用量は一三、九七三升となる。そして原告方では大豆一升から豆腐が一三丁出来るから、豆腐の総製造数量は一八一、六四九丁である。ところで原告は製造した豆腐の総数のうち三分の二を豆腐のまま販売し、残りの三分の一を厚揚げに加工して販売しているが、豆腐の販売単価は二五円であり、また厚揚げは一丁の豆腐を四分したものでその販売単価は五円(豆腐一丁当りに換算すると二〇円)である。そこで、豆腐の製造総数一八一、六四九丁の三分の二に二五円を、三分の一に二〇円をそれぞれ乗じて売上金額を計算すると合計四、二三八、四五五円となる。

(2) 雑収入

(イ) 朝日乳業株式会社へのオカラ売渡代金

朝日乳業備え付けの原始記録を調査した結果、同社へのオカラ売渡金額は九三、二四四円であることが判明した。

(ロ) オカラの店頭販売額

オカラの店売単価は五円で、一日の平均販売個数は二・五個であるから、年間稼働日数を三二七日として、オカラの店頭販売額を計算すると、四、〇八七円となる。

(ハ) 大豆空袋売却代

大豆一俵(六〇キログラム入り麻袋)の容量を四・三斗として原告の大豆使用量一三、九七三升を俵数に換算すると、三二五俵となる。原告はこの空袋を一枚二〇円でくず屋に売却しているので、この売却代金額は六、五〇〇円となる。

(3) 大豆の原価

大豆一俵当りの仕入単価は三、六五〇円であるから、これに原告の仕入俵数三二五俵(前記(2)(ハ))を乗じると、大豆の仕入金額は一、一八六、二五〇円となる。

4  被告署長の主張に対する原告の認否

(一)  別紙所得計算表A欄の金額に対する原告の認否および主張額は同表B欄記載のとおりである。

(二)  被告署長の主張する推計の必要性および合理性を争う。ただし、被告署長の主張(二)(1)のうち、大豆一升から出来る豆腐の数量、豆腐総数のうち厚揚げに加工する割合、豆腐と厚揚げの単価、豆腐一丁から出来る厚揚げの個数、同(二)(2)(ハ)のうち大豆一俵の容量、同(二)(3)のうち大豆一俵当りの仕入単価は認める。

昭和四一年当時原告が朝日乳業にオカラを売っていた事実はあるが、その売り方はきわめて大雑把で、その都度計量してしたわけでもないから、被告署長の主張する朝日乳業へのオカラ売渡金額を基礎とする推計はとうてい合理的なものとはいえない。原告は昭和四一年中に滝沢商店から九九俵、金額にして三六一、三五〇円の大豆を仕入れただけであり、これを基にして被告署長と同様の方法により豆腐(厚揚げを含む)の売上金額を計算すると、一、二九一、二八五円となる。

理由

一  請求原因(一)の事実(本件更正処分と不服審査)は当事者間に争いがない。

二  原告の総所得金額について

1  証人稲垣耕作の証言および原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は昭和四一年当時その営業に関する帳簿類を全く備え付けておらず、原始記録も断片的にしか保存していなかったことが認められ、その所得の実額を把握できる資料がなかったから、推計によりこれを算定する必要がある。

ところで豆腐の製造量はその製造過程で産出されるオカラの量と大体において正比例すると考えられるから、本訴で被告署長の主張している、オカラの量にもとづき豆腐の製造量を推計し売上金額等を算出する方法は、他に特段の事由のないかぎり合理的な方法として是認すべきであり、本件においてこれを不当とする事由はない。

2  収入金額

(一)  豆腐(厚揚げを含む)の売上金額

(1) 豆腐の売上金額の算定には、先ず原告が昭和四一年中に朝日乳業株式会社に売渡したオカラの量を確定する必要がある(オカラの店頭販売分は僅少なので計算外とする)。

証人松井三郎の証言により真正に成立したと認める乙第二号証、本文の成立については争いがなく別紙の部分は証人吉田周一の証言により真正に成立したと認める乙第三号証および右両証人の証言によれば、朝日乳業は乳牛の飼料とするため原告からオカラを一貫目一六円で継続して仕入れていたもので、昭和四一年中に原告に支払ったオカラの代金は総計九三、二四四円であったことが認められるから、これを目方にすると五、八二七貫となる。原告はこのオカラの売渡代金、数量を極力争い、オカラの売渡にあたってこれを正確に計量していたわけではなく、目分量できわめて大雑把な売り方をしていたことを強調するが、だからといって取引量を水増しして計上していたようなことがあるわけではなく、むしろ往々にして実際の量より内輪に見積って引取られていたような実情にあったことは、原告自身の自認するところであるし、右売渡代金額は朝日乳業の経理担当者が記帳していた大学ノートによって確認した数額である(証人松井三郎の証言)から、これは他に特段の事情のないかぎり十分信用に値するものということができ、したがって原告が朝日乳業に売渡したオカラの量は右に計算した五、八二七貫より上まわることはあっても、それ以外ではなかったと認めるのが相当である。原告本人尋問(第二回)の結果とこれにより成立を認めうる甲第九号証の一ないし一二によれば、原告が昭和四八年中に株式会社大南飼料に売渡したオカラの量は合計一、九七九貫となっているが、本件係争年と時期的に相当の隔りがあるだけでなく、これが原告方で生産されたオカラのすべてであるかどうかも不明であり、前記認定を左右するに足りない(別の年度のことをとりあげるならば、証人稲垣耕作の証言とこれにより真正に成立したと認められる乙第四号証によれば、原告方の昭和四三年三月のオカラ売渡量は四五三貫であったことが認められ、これは前記乙第二号証から計算される昭和四一年三月のオカラ売渡量と近似しており、これによっても前記認定の正当性が裏付けられるということができよう)。

(2) つぎに原告本人の尋問(第一、二回)の結果によれは、原告方では大豆五升からオカラが二・五貫生ずるものと認められる(成立に争いのない乙第一号証によれば、原告は他の訴訟事件において証人として、大豆六升からオカラ二・五貫がとれると証言しているが、両者を対比してみて、本訴における供述の方が信用に値するものと認める)から、オカラ五、八二七貫を生ずる大豆の量は一一、六五四升となる。

(3) 原告方では大豆一升から豆腐一三丁が出来ること、製造した豆腐の総数のうち三分の二を豆腐として売り、残りの三分の一を厚揚げに加工して販売していること、豆腐の販売単価は二五円であり、また厚揚げは一丁の豆腐を四分したもので、その販売単価は五円(したがって豆腐一丁に換算すると二〇円)であることは、当事者間に争いがない。

(4) そこで以上の資料をもとにして原告方の豆腐(厚揚げを含む)の売上金額を計算すると、別紙末尾記載の算式により、計三、五三五、〇四五円となる。

(二)  その他の売上金額

コンニャク、糸コンニャク、薄揚げの各売上金額については争いがない。

(三)  雑収入金額

(1) 朝日乳業へのオカラの売渡代金額は、前記(一)(1)で認定したように九三、二四四円である。

(2) 成立に争いのない乙第一号証によると、原告方におけるオカラの店頭売り単価は五円で、一日の平均販売個数二・五個ぐらいであり、年間稼働日数は三二〇日を下らないと認められ、これによればオカラの店頭販売額は年間で四、〇〇〇円となる。

(3) 大豆一俵(六〇キログラム入り麻袋)の容量が四斗三升であることは当事者間に争いがなく、これにより原告方の昭和四一年中の大豆使用量一一、六五四升(前記(一)(2))を俵数に換算すると二七一俵になる。そして前顕乙第一号証によれば、原告はこの大豆の空袋を一枚二〇円でくず屋に売っていたことが認められるから、二七一俵の空袋の売却代金は五、四二〇円である。

3  必要経費

(一)  大豆の原価

大豆一俵当りの仕入原価が三、六五〇円であることは争いがないから、大豆二七一俵(前記2(三)(3))の仕入価額は九八九、一五〇円となる。

(二)  必要経費中その他の項目の金額については、当事者間に争いがない。

4  以上によれば、原告の昭和四一年分の総所得金額(事業所得の金額)は金二、〇八四、八二二円となり、これは本件更正額を上まわる。そうすると、本件更正処分には所得額の過大認定の違法はない。

三  更正の手続的違法の主張について

1  原告は本件更正通知書に理由の記載が欠けていることを違法と主張するが、原告が白色申告者であることは原告の自認するところであり、白色申告者に対しては更正の理由付記は法律上要求されていないから、右は何ら違法事由とはならない。

2  調査の違法および差別的取扱の主張については、これを認めるべき証拠がない。

四  裁決の違法の主張について

この点についても、原告の主張を認めうる証拠はなく、裁決に違法はない。

五  よって原告の本訴請求をいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村正策 裁判官 藤井正雄 裁判官 山崎恒)

所得計算表

<省略>

(注) 計算式

93,244÷16=5,827貫 (オカラの量)

5,827÷2.5×5=11,654升 (大豆使用量)

11,654×13=151,502丁 (豆腐製造数量)

151,502×2/3×25=2,525,025円 (豆腐売上金額)

151,502×1/3×20=1,010,020円 (厚揚げ売上金額)

2,525,025+1,010,020=3,535,045円

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